2012年8月9日木曜日

3. 「伝わる」ということ


3.1 プレゼンテーションスキルのわな

来週の役員報告へ向けて、プレゼンテーションの練習をする人もいることだろう。そういう場で、「もっと報告する内容を構造化して、わかりやすく説明しないと理解してもらえないぞ」というアドバイスを先輩からもらうこともあるだろう。ただ、多くの人が誤解していることがある。良いプレゼンテーションとは、決して「わかりやすく説明すること」ではないのである。プレゼンテーションがわかりやすい状態となっていることはもちろん大事である。
わかりやすいプレゼンテーションは必ず結果に結びつく。話がうまい人ほど、こうした勘違いに陥りやすい。構造化され、論理展開にも矛盾もなく、非常にうまく話ができたという自己満足を得やすいためだ。
しかし、いくら構造化されようとも、いくら論理展開に矛盾がなかろうとも、いくらわかりやすく説明されていようとも、それで人が動くとは限らないのである。
最も話がうまい人といえばテレビのアナウンサーを例に挙げることができるだろう。特にNHKのアナウンサーは、ニュース文などほとんどすべてを暗記して、カメラ目線で一言も詰まらず語る。まさにわかりやすく説明している。しかし、それはわかりやすく説明されているだけに過ぎず、人を動かすことに直接的に繋がるわけではないのである。
「人は資料を読みたいように読む」の節でも述べたことだが、人の話についても同じようなことが言える。

人は人の話を聞きたいように聞く。

人は人の話を聞きたいところだけ聞く。
人は人の話を都合の良いところだけ聞く。

あなたがどうしてもある物事を人に伝えたいとき、とるべき手段は究極のプレゼンテーションをすることではない。究極のプレゼン資料を作ることではない。究極のロジックを組み立てることでもない。究極の分析をすることでもない。その物事を、聞く相手がどのように考えているのだろうか。その物事を、聞く相手がどのように知れば、その人の頭の中に溶け込んでいくだろうか。その人は今、何を考えているのだろうか。聞いてくれる相手のことを考え抜く必要があるのだ。
資料は多少チープでもかまわない。プレゼンが多少下手であっても構わない。プレゼンが成功するかどうかは、聞く相手のことをどれだけ理解しているかによって決まる。
 プレゼンテーションを成功させるためには、聞いてくれる相手のことを理解することからはじめる必要がある。たとえたどたどしい説明であれ、相手のことをよく理解したうえでプレゼンテーションをしたのであれば、それはその100倍論理的でわかりやすい通りすがりの人の説明よりも心に響くものである。

0 件のコメント: