2012年8月7日火曜日

はじめに

 伝えたつもりが伝わらない。相手のことが理解できない。どうやって伝えたらよいのかがわからない。組織が、チームが思うように動いていかない。これらは誰しもが抱えている悩みではないだろうか。
では、こうしたことを克服するためには、どういうスキルが必要なのか。どういう視点が欠けているのか。どういう思考法を備えれば良いのか。足りないこととは何なのか。どう次の一歩を踏み出していったらよいものか、それすらも闇に閉ざされてしまっている。そう感じている人も中にはいるかもしれない。
そうした悩みを抱えている方々に、一筋の光でも良いから与えることができれば。それが本書を執筆するきっかけだった。こんな考え方や思考法があったのかと。皆さんに気づきと驚きを少しでも与えることができれば幸いである。
また本書はビジネスマンだけをターゲットにして書いたものではない。主婦の方でも、学生の方でも、年配の方でも面白いと思っていただける思考の転換について様々な事例を挙げながら紹介しているつもりである。ビジネスマン向けの本なのかと思ってここで本を閉じるのではなく、1章でも読み進めて頂ければと思う。

私は経営コンサルタントとして、様々な企業に対して多用なサービスを提供してきた。事業戦略やマーケティング戦略の立案や、プライシングプランの評価・立案、組織改革や、現場の風土改革、構造改革の実行支援や、企業ビジョンの策定、中国やインドなど海外への事業展開支援、そして新規事業の立ち上げなど多岐にわたる。
こうしたプロジェクトに参画してきた8年間で約2000人のビジネスマンと会ってきた。年齢でいうと、上は70歳から下は20歳まで。役職では、会長や社長・CEOから事業部長、部長や平社員まで。企業規模でいうと、売上高1兆円を超えるグローバルカンパニーから、1000億円程度の企業や、中には数十人のベンチャー企業も含まれる。国籍では、おそらく20を超えるだろう。
100を超えるプロジェクトに従事し、プレゼンテーションの機会は、年間200回は下らないだろう。うまくいったと思うプロジェクトもあれば、今から思えばもっとこうしておけば良かったと思えるものも多くある。
なぜうまくいかない場合があったのか。成功させるための糸口は何だったのだろうか。
当初はすばらしい分析をすることだと思っていた。
すばらしい論理展開のレポートを書くことだと思っていた。
すばらしいプレゼンテーションをすることだと思っていた
しかし、そのいずれでもなかった。
解決しなければならないものは、結局は人と人との問題だった。

本書で挙げている思考の転換にたどり着く前、私は多くのプロジェクトで悩み苦しんだ。どうしてうまく行かないのか、何をすればこの問題を解決できるのだろうか。そこから悪い方向に発展して、こんなこと(仕事)をやっていて意味があるのだろうか。そんなことまで考えたこともある。そうした苦悩の日々を送っていた。
この思考の転換は、こうした私の経験の中で、悩みに悩んだ末にたどり着いたものだ。この思考の転換に気づいてから、私の心は急に軽くなった。錆び付いた釘で床に打ち付けられていた重たい身体が急に自由を手に入れたような、そんな心持となった。
こうした思考に辿り着くことができたのも、様々な業種や会社の方々とのこれまでの出会いがあったればこそである。この場を借りてお礼を申し上げたい。皆さんからのお言葉や、皆さんとのディスカッションがなければ、こうしたことに気づくことはできなかった。お会いした幾人かの方にはその発言を引用させて頂いた。それは私が思考をまとめる過程で非常に感銘を受けたものであったからだ。この場を借りて重ねてお礼を申し上げたい。

様々な職業の、様々な役職、様々な年齢、様々な国籍の人たちと相対するとき、本書で挙げるような思考の転換をすれば、今までよりもよりスムーズにことを運ぶことができるようになるのではないかと私は信じている。
本書で書かれている思考の転換は、おそらく多くの人が、今まで漠然とではあるが一度は考えたことがあったものなのではないかと思う。ただ、それが書籍という形でまとまってはおらず、どういう思考が必要なのかがはっきりとはつかめていなかった。なんとなくこう考えたら良いのに、それが思うように理解できていない。わかっていそうで、はっきりしない。そうしたことを言葉として表しているものになっているのではないかと思う。
そういう奥歯に物が挟まっていたような悩みが、解けてなくなっていく。そんな心持となってくれたとすれば、本書は成功したといえるだろう。

本書の構成は次のようになっている。11ページの概念図も参考にしながら見ていただければと思う。
1章(2つの円とコミュニケーション)では、人と人とは違うのだということをまず知る必要がある。そのことを2つの円という極めてシンプルな概念で説明している。

2章(「伝える」ということ)では、「伝える」ためにはどういう視点がいるのか。どのような思考の転換がいるのかをまとめている。本書では、昨今話題の論理的思考についてはいっさい触れていない。論理的に整理された話をすることは重要だとは思う。ただその前提として、伝えるために必要な論理ではない思考の転換について述べている。

3章(「伝わる」ということ)では、伝えたつもりが、伝わっていない。「伝える」ことと「伝わる」ことの間には大きな谷が存在する。伝わった瞬間とはいつなのだろうか。「伝える」のではなく、相手に「伝わる」ためには何を考えればよいのだろうか。そういう点をまとめている。

4章(たかが共通認識、されど共通認識)は、コミュニケーションを円滑にするために、コミュニケーションをとる効果を最大化するために、最も必要だが、忘れられがちなことについて述べている。それは共通認識である。共通認識と聞くと、多くの人がなんだそんなことか、と軽く受け流してしまうこともあるだろう。しかし、あらゆる物事を進めていく上でこの共通認識ほど重要なことはない。たかが共通認識、されど共通認識である。今まで考えていたものとは次元の違う共通認識があることに気づいていただければ幸いである。

5章(どう脳にインプットするべきか)では、1章から4章のことをうまくするためには、どういう脳を準備しておけばよいのか。日々心がけておけばよいことの思考の転換をまとめている。

6章は、1章から5章まで述べたことを、さらに高めていくためにはどうすればよいのか。そのための思考法、マインドセット、覚悟、姿勢、気持ちの持ちよう、心構え、などを様々な角度からまとめている。この章については、ビジネスマンに限らず、主婦の方や学生、年配の方にお読みいただいても面白みのある思考の転換を挙げている。アトランダムな話題が並び、一貫性に欠けるのではないかと読み進めていく中でお感じになる方もいるかもしれないが、最後まで読んでいただければこのトピックが並んでいる訳について、腑に落ちるのではないかと思う。

最後に本書の読み方について、筆者なりの考えを簡単に述べさせていただこうかと思う。もちろん、最初から最後まで読みきっていただくことが何よりの喜びではある。ただ、皆さんお忙しい中、本書を手に取っていただいたことだと思う。それぞれの問題意識に応じて、読み進めて頂きたい章を以下に挙げさせて頂いた。本書を読む上でのヒントになれば幸いである。

現在、会社や生活の中でコミュニケーションの取り方について悩みを抱えておられる方は1章から順に読んで頂ければ、本書の面白さをご理解して頂けるのではないかと思う。
コミュニケーションよりも、どういう思考の転換なのかというところに興味が強い方は4章から読み進めて1章へと戻っていただいても良いかもしれない。
現在の生活の中ではプレゼンテーションをする機会はそれほどない。上司や顧客にレポートをするということも多くはない。ただ、人とどう対応していくべきか。これからどういう思考で生きていくべきか、という問題意識で本書を取られた方は、1章、5章、6章と読み進めていただいても良いかもしれない。

本書は1章から最後の6章まで流れを意識して執筆してはいるものの、各章または各節単独でも話が完結するように書いているつもりである。一度読んで終わりということではなく、都度問題に直面する度に、それに関係するページを再びめくっていただけば作家冥利に尽きるというものだ。本書を取っていただいた方にとって、明日からの生活が今よりも明るくなる、そうした思考の転換の第一歩を踏み始めることができるようになれば望外の喜びである。

2009年3月 小林慎和

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