2012年8月13日月曜日

5.3 イノベーションは模倣から始まる



イノベーションは模倣から始まる。イノベーションは過去に存在するさまざまなアイデアを模倣し、組み合わせることから始まる。自分の発言に説得力を持たせるために、まずするべきことは人の発言の模倣であっても良い。ウケウリでも良い。
ウケウリだったとしても、何度もそれを語るうちに自分がこれまで持っていた考えとミックスされ始めて、自分なりの言葉に変わっていく。そして自分なりの言葉に変わったとき、その発言というものは過去のこれまでの発言に比べて一段レベルがあがっているはずだ。
無から切れ味の良い言葉を紡ぎだすことはきわめて難しい。そんなことが可能なのは、一部の天才だけである。
青木淳さんは「建築っておもしろそう(http://www.1101.com/architecture/)」の中で話すことに対して面白いことをおっしゃっている。「自分がなにかを思ったのならば、思った内容を、一回言語化するべきですよね。言語化した考えがただしいとすれば、こうなるのではないかと、言葉に置き換えた時点で、はじめて、仮説を築けるようになるから。」
言葉というものは不思議な存在である。頭の中で日がな一日考えをめぐらせ、そして得られた結論を人に説明しようとした瞬間に、決定的な欠落があることに気付いたりする。
そして話しながら、一日かけてたどり着いた結論とは違うことを言っていたりする場合もある。言語化することによって、脳は瞬時に新たな局面に進む。
偉人たち(身近なところで言えば、先輩でも良い)の発言を模倣しつつ、プレゼンを行ったとしても、その話し始める刹那、私たちは自分が発言しようとする内容の欠落に気付くのである。そうすることで、一段あなたの発現の重みは増す。
加えて質問されることに対して対応する瞬間にも私たちの発言を一段レベルアップさせる機会がある。話を聞いた人がしてくれる質問というのは、あなたが説明した内容と、あなたの説明を聞いてくれた人がこれまでもっていた知識や経験とのコラボレーションによって生み出されるのである。
あなたの話を聞いた人が質問を始めるとき、その人の頭の中では同じように、あなたの言葉の模倣が始まっているのである。あなたの説明を聞き、あなたの言葉を模倣する。
そして、自分の知識や経験と照らし合わせて、話を始める。その刹那、その質問を始める瞬間に、あなたのプレゼンを聞いて質問をする人は自分の考えの大きな欠落に気付いている場合があるかもしれない。
表情には出さない。表情には出ないかもしれない。あなたは鋭い切り口の質問に、この人はすごいなと関心するかもしれない。その一方で、質問者はあなたのプレゼンがあったからこそ、その質問にたどり着いたと感じているかもしれない。
お互いが発言しあう中で、お互いが発言する刹那に自分のこれまで持っていた考えというものに大きな欠落を見出し、それを補完しつつ発言や質問をしている。お互いが、話を聞く、その内容を吸収する。自分の考えと照らし合わせる。その二つを組み合わせて新たなことを発言・質問しようとする。そして考えというものを言語化しようとするその瞬間に、大きな欠落に気付く。
そして話しながらその欠落を埋める作業をする。発言し終えた直後、自分の考えが新たな境地にたどり着いたことに気付く。そしてまた、自分の話を聞いた人間が、質問を返してくる。その質問者の中でも同じステップが瞬時のうちになされているはずだ。
こうした発言の度にお互いの経験や考えの欠落部分を刺激して、それを言葉に出させてくれるような場面にたまに出くわすことがある。私はこうしたとき、自分の脳が汗をかいていることを自覚する。自分の脳が発見できた欠落をフル回転で埋める作業をしようとしているわけである。人と議論をしている中で、最も心地よい瞬間だ。

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